魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ガタンッと音を立てて、トラヴィスが椅子から落ちた。

「トラヴィス様」
 レインは立ち上がるとトラヴィスの方に回り込む。そして、倒れたトラヴィスの様子を伺うと、彼は顔を真っ赤に染め上げていた。

「トラヴィスさま?」

「すまない。かなり、動揺した」
 不意打ちはやめて欲しい、とトラヴィスは心の中で思っている。
 レインがそっと手を差し出すと、トラヴィスはその手を握る。手を握ると、ちょっと何かを感じる。

「レイン、()てもいいか?」

 ここでいうトラヴィスの()るは魔力を鑑定するということ。

「はい。ですが、トラヴィス様のお話をうかがったかぎりですと、魔力はゼロのままかと思いますが」
 言いながら、レインは両手を差し出した。トラヴィスは立ち上がりその手を握る。

「いや、そうではあるのだが」
 何か感じるのだ。彼女から少し、その、魔力を。

「魔力鑑定……」
 両手をしっかりと握って、鑑定する。

「なんと」
 そこでトラヴィスは目を見開いた。これは、魔力が枯渇したときを思い出させるような情景でもあるのだが。

「レイン。魔力が百程回復している」
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