魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 だけど、その気持ちが徐々に変化していったことに、彼女自身も気付いていないのだろう。
 トラヴィス同様、妹も不器用な人間だと思う。大人に囲まれ過ぎて成長したから、かもしれない。

「レインにもサインをもらってきた」

 それは教会に届けるための結婚申請書。間違いなく彼女のサインがある。

「その、見届け人はお前に頼みたい」

「ああ、わかった」
 書類にサインをしながらライトは言う。
「お前さ。レインのこと泣かせたら、殺すからな」
 物騒な言葉が出た。

「泣かせるつもりは無い」

「どうだか、ほらよ」
 サインした用紙をトラヴィスに手渡す。

「ああ、ありがとう」
 それを手にして席を立とうとするトラヴィスにライトは声をかけた。

「トラヴィス」

「なんだ」

「お前も幸せになれよ」
 自分自身を幸せにできないような男が、なぜ他人を幸せにできるのだろうか。

 否――。

 だから、ライトはトラヴィス自身にも幸せになってもらいたい。
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