魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインが久しぶりにカレニナ家の敷居をまたぐと、母親が出迎えてくれた。

「お帰りなさい、レイン」

 両手を広げて、レインを包み込む。だけど、レインの身長はいつの間にか母親と同じくらいになっていた。

「レインちゃん、しばらく会わないうちに大きくなったわね」

「そうですね。二年半ぶりですね、お母様」

「そういえば、あなた。私の薬に気付いたらしいわね」
 クスリと母親は笑う。

「まあ、お母様のやりそうなことですからね」

「さすが、私の娘ね」
 母娘(おやこ)は似たような表情を浮かべて、似たように笑顔を浮かべていた。

 レインが戻ってきたのも、トラヴィスと結婚式を挙げるためだった。それから数日の結婚の休暇をもらい、それが明けたら魔導士団の方へ復帰する、予定。

 だが、この二人の結婚を快く思っていない者が一人いた。それはレイン付きの侍女マレリア。最近はライトと顔を合わせるたびに。
「旦那様は嘘つきですね」
 と言ってくる。

 それでも、レインと一緒にイーガン家に行く予定。だからライトは気になってマレリアに尋ねた。なぜにそこまで、トラヴィスがレインの相手にふさわしくないと思っているのか、ということを。

「旦那様、お気づきになられていないのですか。あれだけ独占欲の強い男の本性を」

 ライトにはマレリアの言っている意味がわからなかった。ただ、マレリアは純粋にレインの心配をしていただけなのだが。

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