魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ですから、トラヴィス様は独占欲の塊なのです」
 手の甲を頬に添え、マレリアはレインの耳元で囁いた。
「いいですね、お嬢様。頑張ってください」

 そこで礼をしてマレリアが出ていく。一人にしないで、とレインは思ったが、マレリアにいられても、多分、困る。

 なぜかベッドの上で正座をしてしまうレイン。

「レイン」

 名前を呼ばれて、振り向く。いつの間にか彼がいた。
 トラヴィスがベッドに座ると、そこが静かに沈んだ。それでもレインは正座のまま。

「あの、トラヴィス様」

「なんだい?」

「その、後悔されておりませんか? その、私と結婚したことを」

「いや、全然」

 トラヴィスが左手をこいこい、と振ったので正座したまま膝で移動し、彼の隣で再び正座する。

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