魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「レインこそ、後悔していないか? 私と結婚したことを」
そこでトラヴィスはレインの背に手を回した。
「いいえ」
「そうか」
そしてぐっと彼女の身体を抱き寄せ、その胸元に顔を埋める。それは母親に甘える子供のように。
「トラヴィス様?」
レインはそっとトラヴィスの頭を、そして髪を右手で優しく撫でた。
「私は、そんなに強い人間ではない」
「はい」
「私は、ずるい男だ」
「はい」
「私は、魔導士団長を務めているが。多分、それも向いていない」
「えっと。お辞めになりたいのですか?」
「君がいなくなってから、辞めようとしたけど。ダメだった」
辞めようとしたんだ、とレインは思った。
トラヴィスが団長職を辞すると騒いだら、魔法研究所の研究員やそれから大臣たちまでもがやってきて、必死でとめたらしい。その話は後日、レインの耳に届くことになる。
「とにかく。私はそういう男だ。そんな弱い男に嫁いで、後悔していないか」
「まったくしておりません」
空いている左手で彼の背を優しく撫でる。
「トラヴィス様が弱いことも、ずるいことも、そして努力家であることも私は存じております。そんなトラヴィス様だからこそ、一緒にいたいと思いました」
「レイン」
トラヴィスは顔をあげ、何かに怯える幼子のように彼女を見上げた。
「私たちは夫婦になりました。お互いの足りないところを、お互いで補っていけばよろしいのではないでしょうか」
目尻を下げて微笑む姿は、トラヴィスにとって聖母のようにも見える。
「レイン」
トラヴィスは彼女を抱く腕に力を入れる。二度と彼女を手放したくないと、そう思う。
「トラヴィスさま?」
彼女に名前を呼ばれるのは心地よい。
だからこそ、彼女を失うことなど、あってはならない。
そこでトラヴィスはレインの背に手を回した。
「いいえ」
「そうか」
そしてぐっと彼女の身体を抱き寄せ、その胸元に顔を埋める。それは母親に甘える子供のように。
「トラヴィス様?」
レインはそっとトラヴィスの頭を、そして髪を右手で優しく撫でた。
「私は、そんなに強い人間ではない」
「はい」
「私は、ずるい男だ」
「はい」
「私は、魔導士団長を務めているが。多分、それも向いていない」
「えっと。お辞めになりたいのですか?」
「君がいなくなってから、辞めようとしたけど。ダメだった」
辞めようとしたんだ、とレインは思った。
トラヴィスが団長職を辞すると騒いだら、魔法研究所の研究員やそれから大臣たちまでもがやってきて、必死でとめたらしい。その話は後日、レインの耳に届くことになる。
「とにかく。私はそういう男だ。そんな弱い男に嫁いで、後悔していないか」
「まったくしておりません」
空いている左手で彼の背を優しく撫でる。
「トラヴィス様が弱いことも、ずるいことも、そして努力家であることも私は存じております。そんなトラヴィス様だからこそ、一緒にいたいと思いました」
「レイン」
トラヴィスは顔をあげ、何かに怯える幼子のように彼女を見上げた。
「私たちは夫婦になりました。お互いの足りないところを、お互いで補っていけばよろしいのではないでしょうか」
目尻を下げて微笑む姿は、トラヴィスにとって聖母のようにも見える。
「レイン」
トラヴィスは彼女を抱く腕に力を入れる。二度と彼女を手放したくないと、そう思う。
「トラヴィスさま?」
彼女に名前を呼ばれるのは心地よい。
だからこそ、彼女を失うことなど、あってはならない。