魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
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気が付くと朝だった。外から差し込む光。身体を動かそうとすると、なぜかがっちりと固定されている。その原因はトラヴィス。彼女を抱きかかえるようにして眠っている。
彼の、このような穏やかな顔を見るのは、初めてかもしれない。その瞼がピクリと動く。
「ああ、レイン。起きたのか?」
目が合った。
「あ、はい。今、何時でしょうか」
「何時でもいい。昨日の今日を、誰に咎めることができようか」
トラヴィスの腕が伸びてきて、彼女の頭を優しく撫でた。そのまま、ぐいっと自分の胸元へと押し付ける。
彼女の息がかかってくすぐったいのか、その胸元が震えた。それがちょっと面白くなって、レインはふーっと息を吹きかけた。また、胸元がピクリと震える。
「レイン」
多分、彼女がいたずらを仕掛けていることに気付いたのだろう。少し低い声で妻の名を呼ぶ。
「君は一体、何をしている?」
「いえ、何も」
言うと、腕を彼の背にまわして、ぐっと胸元に自分の額を押し付けた。それはわざと顔を隠して、その表情を彼に見せないために。