魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ドニエル。俺にとっては頭が痛くなるような話だが、念のため確認しておきたいことがある」
 本当に頭が痛くなってきたような気がする。ライトは額に手を当てて、言葉を続ける。
「その、トラヴィスがレインの周囲をうろつくようになったのは、その、婚約が決まってからか?」

「レインさんが学園に入学されてからですよ。十歳の女児に、何をしてるんだって思いましたからね。傍から見たら、犯罪ですよね」
 このドニエル。年はトラヴィスの一つ下。だから、彼もトラヴィスの様子をよく知っているらしい。

「もしかして、レインが学園で孤立していたのは、それが原因か?」

「八割方、団長が原因と思われます。残りの二割は、まあ、あれですよね。その、レインさんの魔力が原因かと」

「いや、八割の原因がわかれば、それでいい」

 足を組み、ライトはお茶を飲んだ。マレリアの言っていた意味がやっとわかった。

「まあ、あの二人は結婚してしまったわけだから。レインを独占するのは家の中だけにしてもらって、もう少し魔導士団の仕事は円滑に進めてもらうように根回しをしなければならないな」

「さすがライトさんです」
 そこでやっとドニエルが笑顔を見せた。

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