魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインは負傷者の手当に奔走した。魔導士団と一言で言うけれど、その中でも治癒魔法を使える魔導士はほんの一握り。遠征に行く時も、治癒魔法が使える者を数名同行させる。その数名のうちの一人がトラヴィス。トラヴィス自身が負傷したら、回復役は減る。そしてトラヴィス以上の回復役はいない。
 だが今回は研究所からも同行した。ライトもまた治癒魔法が使える。研究所所属でありながらも。
 だからだろうか。最近では、魔導士団の方へ異動して欲しい、という変な圧力がかかってきている。

「終わった」
 救護院にいる負傷者の全員の治癒を終えたのは、日が傾きかけようとしていたときだった。早く帰らないと、外は暗闇に覆われてしまうだろう。

「お疲れさん」
 ソファでぐったりと身体を預けていたら、ライトが飲み物を持ってやってきた。レインはそれを受け取る。

「どうだ。久しぶりの魔導士団は」
 ライトはレインの横に座った。ゆっくりとソファが沈む。

「もう、疲れました」

 はは、っとライトは乾いた笑いを浮かべる。

「お前の魔法も鈍っていないようで、安心したわ」

「ですが。なんで、こんな状態になってから戻ってこられたんですか?」

「あん?」
 飲んでいたカップから口を離して、ライトはレインを見つめた。

「まあ、力量を誤ったというのが一つと。それから、集落が襲われていた、というのが一つかな」

「え」

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