魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトはトラヴィスが勝ち誇ったような笑みを浮かべているのが気に食わない。

「お前こそ、いい加減、妹離れしろよ。レインはやればできるんだよ」

「なんか、その言い方。腹立つな。お前さ、調子にのって孕ませるなよ。今、あいつに抜けられると困るのはお前だろ」

「そこは、大丈夫だ。加減してる」

「ちっ。別に俺はお前ののろけ話を聞きにきたわけじゃないんだよ」

「話をふってきたのはお前の方だろ」

 堂々巡りしそうな会話。だから、ライトはそこで言葉を止めた。

「まあ、いい。とにかく今、レインは魔導士としても成長の時期だ。学園も飛び級で卒業したし、魔導士団でも最年少だ。そして薬師としての才能もある。その才能を生かすも殺すも、お前しだいだ」

「ああ、それもわかってる」
 と言って、トラヴィスは席を立った。
「話、長くなりそうだからな。気はすすまないが、茶くらい出してやる」

 彼女の魔導士としての扱い方に困っているのは事実。だが、愛する女性として手元に置いておきたいのも事実。
 その葛藤が目の前にいるライトに理解ができるものか。

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