魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
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「ライト、ライト」
 ニコラが満面の笑みを浮かべながら、息子の名を呼んだ。

「義母さん、どうかしましたか?」
 息子のそれに、ニコラは笑みを崩さない。

「あのね、レインのための回復薬ができたのよ」
 周りに誰もいない、と言うのに、彼女はわざと息子の耳元で囁いた。その囁きに目を見開くライト。

「義母さん、少しお茶でも飲みながら話をしませんか?」

「あら、いいわね」

 ライトはニコラを書斎へと招き入れた。ベイジルについても聞きたいことがあったからだ。執事にお茶の準備だけを頼む。彼は、それを終えると静かに書斎を出る。

「それで、レインのための回復薬ができた、と言うのは本当ですか?」

「ええ」
 カチャリとカップが鳴った。ニコラは一口、お茶を飲む。そして、またそれをテーブルの上に置く。その些細な動作でさえ、ものすごく長い時間に感じてしまう。

「ほら。あなたたちがあの人の書いた日記とか資料とかを見つけてくれたじゃない? あれでね、魔力枯渇のこととか、あの人の病気のこととか。その、いろいろわかったから」

 少し照れたようにニコラは言う。

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