魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 あっけにとられて眺めているレインの唇に勢いよく自分のそれを重ねた。彼女の喉を、熱い何かが通り抜ける。

「ぷはっ、けほっ」

 あまりにも突然であったため、レインはむせてしまったらしい。

「けほっ。トラヴィス様」

「こうでもしないと、君はこの薬を飲まないだろう」
 残っているそれを舌で拭い取るように、彼は唇を舐め回した。

 レインの喉は、まだ焼けるように熱く、ヒリヒリとしている。この薬に言えることは、後味が悪いということだろうか。さらに言うと、その薬が駆け抜けていった胸、お腹の辺りもぽかぽかとしてくる。

「レイン。()てもいいか」

 すっと両手をとられた。
 頷く。

「魔力鑑定」

 しばらくして、トラヴィスの目は大きく開かれた。

「レイン。君の魔力が戻っている。まさしく無限大」
 トラヴィスには見えた。彼女の魔力が九の六桁まで回復しているということが。

「レイン」
 なぜか彼女は彼の胸に頭を預けて、くたりとしている。
「レイン、どうかしたのか?」

 反応の無い彼女の名を必死で呼ぶ。もしかして、急激に魔力が戻ったから、反動がきたのか。

「と、トラヴィス、さま」

 彼女の顔が火照っている。まさか。

「熱があるのか?」
 トラヴィスが彼女の肌に触れようとすると。

「トラヴィス、さま。からだが、なんか、へん」

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