魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインは自宅から動くことができず、今も伏せっている。それを心配してライトとニコラが様子を見に来たのだ。

「何のことかしら?」
 ニコラは右手人差し指を顎に当てながら、斜め上を見上げている。これは、間違いなく確信犯だ。

「でもでも。レインが妊娠したってことは、あの回復薬が効いたってことでしょ?」

「はい……。よく効きました……」
 苦虫をかみつぶしたような顔をするトラヴィスは、あの時のことを反省している。

「はあ。お前のせいだぞ」

 ライトはトラヴィスの前に一枚の紙切れを投げ出した。そこには『辞令』と書いてある。さらに視線を進めると。

「魔導士団副団長、だと? お前がか?」
 トラヴィスも驚きを隠せない。
「いっそのこと、団長を譲るぞ?」

「いるか」

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