魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「私もね。レインを妊娠中はそんな感じだったわ。食べ物食べては吐いて、水を飲んでは吐いて」

「お母様も、ですか?」

「ええ」
 ニコラはベッドの脇に座った。そしてレインの頭を優しく撫でる。
「そのたびにね、あの人が驚いて、慌てていたわ」

 その目はどこか遠いところを見つめている。きっと、遠い過去。

「私、お母様からお父様の話を聞いたこと、あまり無いのですが」

「そうだっけ?」

 はい、とレインは頷く。

「聞きたい?」

 もう一度レインは頷く。

「そうねぇ。あの人、少しトラヴィス君に似ているかも」

 そう言えば、そんなことを祖母も言っていたなとレインは思い出す。
 それから久しぶりに、母親と話をした。時間を忘れるくらいに。

< 181 / 184 >

この作品をシェア

pagetop