魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
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 レインのお腹も次第に膨らみ始め、研究所の仕事の方にも慣れてきた。魔導士団の方では、トラヴィスが毎日ライトに怒鳴られながら、書類仕事をさばいているらしい。それをミイクから聞いたとき、その光景が目に浮かんでくるようで、思わずレインは顔がほころんでしまった。

「どうかしたのか?」

 そろそろ眠りにつこうと、レインとトラヴィスはベッドの上で、並んで枕を背もたれにして寄り掛かっていた。

「今、お腹の中を蹴られました」
 活発なときには、そのお腹が外から見てもわかるくらいにぐにゃぐにゃとレインの意識とは関係なく動いている。

「レイン」
 トラヴィスは温かな視線で、隣の大事な人の肩を抱き寄せた。彼女は彼の肩に自分の頭を預ける。

「私と君の子だから、きっと可愛いだろうな」
 空いている方の手で、レインのお腹の膨らみを優しく撫でる。
 ぷっ、とレインは吹き出した。
「トラヴィス様、そういうのをなんて言うか知ってますか?」

 彼女が言う「そういうの」がいまいちピンとこないトラヴィス。だから、「いや」と答える。

「親バカって言うらしいですよ」

「そうか」
 きっとここにライトがいたのであれば、バカで変態とは最悪だな、と悪態をついたに違いない。だが、そんな彼も新しく生まれてくる命を楽しみにしている。つまり、既に伯父バカというわけだ。

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