魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「でも、トラヴィス様。私、やはり心配なことがあるのです」

「なんだ」
 彼は優しくお腹を撫でている。お腹の子と話をするかのように。

「もし、この子も魔力無限大だったとしたら、と思うと」
 彼女が全部を口にしなくても、彼女の言いたいことを察するトラヴィス。その顔を激しく曇らせた。

「それは、嫌だな。この子が娘だったとしたら、なおさら嫌だ。今なら、ライトの気持ちが少しはわかるかもしれない」
 だが、と彼は続ける。
「君には薬師の知識もある。この子のそれを治すような薬を、今から研究してみてはどうだろう」
 レインは彼を見上げた。

「そうですね。お母様のような、怪しい薬ではなく、きちんとした薬を開発したいですね」

「そうだ。この子が婚約者から逃げなくてもいいように、な」

 そこでトラヴィスは、レインの額に口づけをした。


【完】
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