魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
モールズワース大陸の東にあるマセイアン国。その周辺を広大な緑に囲まれているが、魔物たちにも囲まれている国であった。
人間と魔物の共存と言われているが、魔物は人間たちに牙を剥く。人間たちは、剣と魔法を駆使して魔物から自分たちの生活を守っていた。そのため、マセイアン国にはその魔物から身を守るために騎士団と魔導士団が存在する。
その魔導士団の団長の執務室に黒い髪の少女が一人立っていた。その机を挟んで座っているのは魔導士団団長トラヴィス・イーガン。こげ茶色のウェーブのかかった長い髪が、年齢よりも落ち着いた雰囲気を醸し出してくれる。
二十六歳という若さで団長の椅子に座り、かれこれ三年。今回のような事態は初めてだった。いや、むしろ、魔導士団設立以来の出来事であると思っている。
「レイン・カレニナ。魔力が枯渇したというのは本当だろうか?」
机の上に両肘をついて、その両手を組んでいる。その手が邪魔をして顔の表情の全部が見えないところが怖い。
「はい。どうやらそのようです」
「それで、魔力回復薬は飲んだのか?」
「はい。ですが、それでも魔力は戻りませんでした」
「昨日はきちんとぐっすり眠れたのか?」
「はい。それなりに」
そこでトラヴィスは口をつぐんだ。
「手を出してくれ」
「はい」
レインはその小さな手を、トラヴィスの前に差し出した。トラヴィスは優しく彼女の手をとる。
人間と魔物の共存と言われているが、魔物は人間たちに牙を剥く。人間たちは、剣と魔法を駆使して魔物から自分たちの生活を守っていた。そのため、マセイアン国にはその魔物から身を守るために騎士団と魔導士団が存在する。
その魔導士団の団長の執務室に黒い髪の少女が一人立っていた。その机を挟んで座っているのは魔導士団団長トラヴィス・イーガン。こげ茶色のウェーブのかかった長い髪が、年齢よりも落ち着いた雰囲気を醸し出してくれる。
二十六歳という若さで団長の椅子に座り、かれこれ三年。今回のような事態は初めてだった。いや、むしろ、魔導士団設立以来の出来事であると思っている。
「レイン・カレニナ。魔力が枯渇したというのは本当だろうか?」
机の上に両肘をついて、その両手を組んでいる。その手が邪魔をして顔の表情の全部が見えないところが怖い。
「はい。どうやらそのようです」
「それで、魔力回復薬は飲んだのか?」
「はい。ですが、それでも魔力は戻りませんでした」
「昨日はきちんとぐっすり眠れたのか?」
「はい。それなりに」
そこでトラヴィスは口をつぐんだ。
「手を出してくれ」
「はい」
レインはその小さな手を、トラヴィスの前に差し出した。トラヴィスは優しく彼女の手をとる。