魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「あの子の父親の方の力だね。母親はただの薬師だからね」

 レインの父親。魔導士の中でも最強の男と言われていた大魔導士。しかし、組織に捕われるのが嫌いで、ついでにいうと人間も嫌いで群れるのも嫌いで魔導士団には所属していなかった。ライトと同じ魔法研究所の所属だった、と聞いている。
 それでもライトの父親とは懇意にしていたらしい。人間嫌いの大魔導士が関わった数少ない人間が、ライトの父親とそしてレインの母親になるわけだが。

「大魔導士ベイジル様、ですね」

「あらあら。そんな大層な名前で呼ばれているのかい」
 祖母が笑った。
「悪いけど、父親の方はよくわからないんだよね。娘が突然連れてきたからね。大魔導士と呼ばれているくらいなら、そっちの方が詳しいんじゃないかい? その資料とか何かは、そっちにあるんじゃないかい?」
 彼女の言うそっちとは、王都のことだろう。

「そう、ですね」
 そう言われればそうかもしれない。しかも魔法研究所所属であれば、あの研究所内に彼が書き残した資料や論文等、あるだろう。ある、だろう? あったか?

「どうかしたのかい?」
 考え込むライトに祖母は声をかけた。

「いえ。ただ。ベイジル様の論文などを見かけたことがないのですよ。さらに、彼の名前が記された資料なども一切」

「へぇ。それは可笑しいね。彼はこの家にいたときも、そこの机で何やら熱心に書き物をしていたけどね」
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