魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「魔力鑑定」
 彼が呟く。それは、魔導師の魔力量を測るための術。
 本来であれば、その術を用いることで彼女の魔力が彼の方に流れてきて魔力を感じるはず。だがレインからは何も感じない。
 それはレインも同じ。本来であれば、魔力量を測るための魔力がトラヴィスから流れ込んでくるはずなのだが。彼にとられた手から、彼の体温を感じるだけ。
 しばらくして、トラヴィスは目を見開いた。その手は離さない。

「本当に、魔力が無い。一パーセントさえも残っていない。レイン、君の魔力はゼロだ」

 宣言された。わかっていたことなのに、改めて口にされると、心の中をガツンと殴られたような衝撃。

「つまり、私はもう、魔法が使えないってことですよね」

 トラヴィスは頷く。

「つまり、もう。魔導士ではないってことですよね」

 それには頷かない。

「魔力の枯渇も一時的なものかもしれない。だから、正確には、今は魔法が使えない、だ」
 トラヴィスが言ったのは、彼の優しさからくるものだろうか。

「私、魔導士団、クビですよね?」
 レインにとってそれの答えを聞くのが一番怖かった。魔法が使えなくなって最初に頭をよぎったのは、魔導士団を退団させられること。

「それは、今のところ考えてはいない」
 ぎゅっとトラヴィスが握っていた手に力を入れた。
< 3 / 184 >

この作品をシェア

pagetop