魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「トラヴィス様?」

「私の側で、私の仕事のサポートをしてくれればいい」
 それは彼の本心だろうか。

「ですが。魔法の使えない私は、お荷物です」

「何も、魔物討伐だけが魔導士の仕事ではないよ」
 トラヴィスはまだ優しく手を握っている。
「私の側にいてくれさえいれば、君の魔力枯渇の原因についても調べやすい。何しろ、回復薬でさえも回復しないというのは前代未聞だからね」
 つまり、研究対象というやつだろうか。
「とりあえず。これを一本、飲んでみようか」
 トラヴィスはどこからか魔力回復薬を取り出した。少し楽しそうにも見える。

「はい」
 とレインは、渋々とそれを受け取った。

「レイン」
 トラヴィスは彼女の名を呼ぶと、こっちへこい、というように右手をひらひらと振っている。レインは机をぐるりとまわって、トラヴィスの隣に立った。

「ここに座りなさい」

 トラヴィスが言う()()とは彼の膝の上。

「あの? そこに、ですか?」
 視線をそこに向ける。

「そう、ここ」
 トラヴィスは楽しそうに、その膝をポンポンと叩いた。
「魔力回復薬を飲んでも、本当に魔力が回復しないのかを、近くで確認したい」

「ですが」

「私がいい、と言っているのだから気にする必要はないよ。それに私と君の仲じゃないか」

「では、失礼いたします」
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