魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 そこから二人の間に言葉は無かった。それ以上、言うことが思い浮かばないのだ。ライトはお茶の残りを一気に飲み干すと、その使い捨てのカップを握り潰し、テーブルの上に置いた。

「今日は疲れた、俺はもう帰るぞ」

 ライトが立ち上がると、トラヴィスが情けない表情を浮かべて顔を上げた。今にも泣きだしそうなその表情。

「レインに、会いたい……」
 彼はそう絞り出した。

「レインはもういない」
 返ってきたのは冷たい言葉。

「どういうことだ」
 あれだけぐったりとしていたと言うのに、それを聞いた途端トラヴィスは立ち上がった。

「言葉の通りだ」
 ライトは冷たく言い放つ。

「遠征から帰ってきたら、レインに会わせてくれる約束だったろう」
 トラヴィスはライトに詰め寄り、彼の胸座を掴んだ。いつも穏やかな表情を浮かべているトラヴィスとは思えない。その彼は目を鋭く光らせながら、ライトを見上げている。

「レインは、家を出て行った」
 ライトがそう言うと、二人の間にパチッと閃光がほとばしる。ライトが後ろに吹っ飛び尻もちをついた。
< 40 / 184 >

この作品をシェア

pagetop