魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトはトラヴィスに一歩、また一歩と近づく。

「なあ、トラヴィス。考えてもみろよ。魔力無限大と呼ばれてちやほやされていた魔導士がとうとう魔力枯渇を起こした。これがどういうことかわかるか?」

「どういう、意味だ?」
 トラヴィスはピクリと眉を動かす。

「周囲の目だよ。期待と羨望の眼差しで溢れていたその目が同情にかわる。もしくは、レインのことを蔑み、罵る者だって現れるかもしれない」

「それは、私が許さない」

「お前が許さないと口で言ったところで、何ができる。それに晒されて生きていくのはレインだ、お前ではない」
 今度はライトがトラヴィスの胸座を掴んだ。
「お前に何ができる。レインの魔力を回復させることができるのか」

 トラヴィスはライトを睨んだが、その言葉に対して返事ができない自分に気付く。

「ほら。何も言えないじゃないか」
 ライトはトラヴィスを突き放した。トラヴィスは力なく、よろりと一歩下がる。
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