魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ねえ、レインちゃん」
 母親がレインの名を呼んだ。
「よかったら、また遊びに来てくれない?」

「え、いいんですか?」
 レインの顔がぱーっと輝いた。

「お姉ちゃん、また来てくれるの?」
「おねーちゃん、またきてね」
 二人の姉妹、姉がアニーで妹がシャリー、が、交互にそんなことを言う。その言葉に、ついついレインが顔をほころばせる。
「なんか、よくわからないけど。嬉しいです」

「お姉ちゃん、泣いてる?」
 アニーに指摘され、目尻を小指でぬぐった。ちょっとだけ濡れている。

「あら、本当。どうしてでしょう?」

「おめめに、ごみー」
 シャリーが目にゴミが入ったのではないか、と言って、レインの瞳を覗き込む。

「えっと。シャリーさんは私のことを心配してくれたのでしょうか?」
 うん、と力強く頷く。アニーもうん、と言う。
 なぜか目尻にたまっていた涙が溢れそうになるが、それをぐいっと食い止めようとしたため鼻の奥が痛い。
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