魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 そういや、彼は昔からこういった事務作業は得意では無かったかもしれない。ということを思い出す。

「レインからの手紙を持ってきたんだが、この書類の山では大事な手紙も埋もれてしまうから持ち帰らせてもらう」

 書類の山の向こうで頭が動いた。

「待て。寄越せ」

 ライトは書類の山を崩さないようにぐるりと回って、トラヴィスに手渡した。手紙を受け取った彼の手は少し震えていた。その震える手で封を開け、震える手で手紙を手にした。トラヴィスは黙ってその文字を目で追う。ライトは黙ってその様子を見ていた。というのも、この状態のトラヴィスを一人にしておくのも少し心配だったからだ。

 今では魔導士団長の座まで上り詰めているトラヴィスではあるが、幼い頃から優秀な魔導士だった、わけではない。ライトやレインが天性の魔導士であるならば、トラヴィスは後天的な魔導士。つまり、努力でここまで上り詰めた魔導士だ。
 過去のトラヴィスを知る者は、彼が今魔導士団長を務めていることに驚いている者もいる。だが、彼の努力を知る者は、成るべくしてなったと思っている。ライトはもちろん後者。だが第三の意見というものもあり、彼が魔導士団長になったのは前魔導士団長の娘と婚約をしたからだということも、一部では囁かれている。
 トラヴィスが魔導士団長になった理由は、彼をそれに任命した人たちにしかわからないだろう。だから、ライトも知らない。ただ、成るべくしてなったと、彼自身はそう思っている。
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