魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「お前。もう少し、しっかりしろ。言っただろ。レインがこのまま魔力枯渇の状態が続けば」

「ああ。わかっている。なんとかしなければならないことも。だが、何も手がつかない。レインに会いたい」

 視線を上にあげたままトラヴィスは答えた。
 はあ、とライトは肩で息をついた。思っていたよりもこれは重症だ。

「とりあえず、この一山片付けるのを手伝ってやる。お前がそんなんじゃ、俺も張り合いがないからな」
 ライトは目の前の書類の一山に目を通した。多分、来た順番から積まれているのだろう。ということは、と思い、一番古そうな山の書類を一部崩して、ソファの前のテーブルの上に積み直した。トラヴィスの確認が必要なものと、そうでもないものに分類する。そうすると実際に彼の作業量というのは半分以下になる。

「ほらよ、とりあえずこれにはサインだけしとけ」

「お前たちはやっぱり兄妹(きょうだい)なんだな。そういうところが、似ている」

 力なく言いながら、書類にサインを始めるトラヴィス。
< 55 / 184 >

この作品をシェア

pagetop