魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 結局、人が良いライトは、五つあった山を三つほど崩すまで手伝ってしまった。

「お前。他に誰か人をつけろ。この量を一人でさばくのは無理だろ」

「だが、それではレインが戻ってきたときに彼女の居場所が無くなるだろう」
 困ったような表情を浮かべるトラヴィス。

「そんときはそんときで、また考えればいいだろ? 起こってもいないことを心配して、目の前のことをないがしろにしてどうするんだ」

 ライトは言うと、先ほどまで三山あった場所に、お茶をコトリと置いてやった。

「悪いな」

「悪いと思うなら、もう少しビシッとしろ」

「お前がレインに会わせてくれないのが悪い」
 ジロリとライトを睨む。

「レインが会いたくないって言ってるんだから仕方ないだろ。とりあえず今はその手紙で我慢しとけ」

「わかった、今はこれで我慢する」
 ライトは、こんな素直なトラヴィスは気持ち悪いな、とも思った。そして、自分の分のお茶を手にすると、ソファの方にドサっと座る。

「おい、トラヴィス」
 お茶を飲みながらライトは声をかけた。

「なんだ」

「お前は、ベイジル様の論文とか資料を見たことがあるか?」

 トラヴィスは少し考えるふりをする。だが、返ってきた答えは。

「いや、無いな」

 あの努力家のトラヴィスでさえも見たことが無いというのであれば、ベイジルの資料はここにはないのではないか、とも思えてきた。
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