魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 禁書庫内の机についた。論文を広げる。すると、なぜかトラヴィスのことが思い出された。
 彼はすぐに「研究所所属は暇でいいな」と言う。だがライトに言わせれば、暇なわけではない。ただ、時間を自由に使える、というだけ。
 それに研究所所属だからって好き勝手にやっているわけではない。一つのテーマを決め、それに対して成果を出さなければ、次の年の契約更新は無い。そういった意味では、不安定な立場でもある。
 ただ、幸いなことに、先述した通り、研究所所属の人間は自分の興味があることに対しては貪欲に取り組む。つまり、貪欲に取り組めなくなった者たちだけが、契約を打ち切られるというわけだ。

 開いた論文には、魔導士の魔力とは普通の人間の体力のようなもの。と記載があった。著者を確認したら、ライトの知らない著者だった。生きているのか死んでいるのかさえもわからない。ただ、論文の発表時期を考えると、後者の確立の方が高いだろう。
 魔力とは人間の体力のようなものであり、訓練をすればその力をつけることができる。使い果たしたときには、回復に専念する。薬を使うのも良いし、その身体を休めることでも良い。それで体力が回復するように、魔力も回復する、と。
 魔力が体力であれば、レインは体力を失った状態にあると考えられる。休息してもその体力が戻らないのであれば、やはり回復薬に頼るのがいいのだろう。だが、その回復薬の効果がないとすれば。
 そこでライトは考える。新しい病気が見つかったときに新しい治療薬を開発するように、レインにも新しい回復薬が必要である、ということにならないだろうか。
 わずかでも希望があるならば、それにすがりたいという思いだ。
< 59 / 184 >

この作品をシェア

pagetop