魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
11.できるわけがないだろう
 アーロンの話は、ほぼほぼ父親から聞いていた内容だった。だが、彼の口から義母のニコラの名前が出てこないのが不思議だった。だから思わず聞いてしまった。

「あの。ベイジル様は結婚はされていなかったのでしょうか」

「あれが結婚。できるわけがないだろう」
 ふっと、アーロンは鼻で笑った。
「だが、もししていたとしたら、相手の女性を見てみたいものだ」
 それはベイジルをバカにしているわけではない。本当にどこか遠くを懐かしんでいる様子。

「仮に。もしも万が一。彼が結婚していたとしたら。彼の論文はそこにあるのではないか? 彼の家族の元に」

「ベイジル様の家族」

「まあ、彼は両親も幼い頃に失っているし、兄弟もいなかったと記憶している。彼が住んでいたのは研究所の寮だし。となると、本当に彼の論文はどこにいったのか。ああ、思い出した。彼は突然姿を消したんだよな。その後、団長からベイジルが亡くなったらしいと、聞いた」
 ふむう、とアーロンは右手を顎に当てた。ここでいう団長とはライトの父親のことだ。
 どうやら彼はベイジルとニコラの関係は知らないらしい。
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