魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ああ。そうえいば」
 アーロンはまた何かを思い出したのか、口を開く。
「レインちゃんは元気か? もう、学園は卒業したのだろう? 噂はちらほら入ってきている」
 妹のことを尋ねられ、少し心の中で焦るライトではあるが、当たり障りのない答えをする。そして、けして嘘はつかない。

「はい。魔導士団の方に入団しました」
 そう、これは嘘ではない。

「そうか。彼女の魔力を()たとき、なぜかベイジルを思い出した。彼もまた、魔力無限大だったからな」
 ライトの心臓がドキリと激しく鳴ったのは、アーロンにレインの素性がバレたかもしれないという思いからだ。だが、ライトの考えは杞憂に終わる。

「まだ幼い少女だ。大事にしなさい」
 アーロンのその温かい言葉に、ライトは頷くことしかできなかった。

 アーロンの屋敷からの帰り道。ライトは、考えていた。ベイジルの論文はベイジルの家族の元に、という言葉。ベイジルの家族は、ニコラとレインだ。ということはやはりニコラに頼るしかないのだろうか。

 そう考えていると、ふと、レインに会いたくなった。また、あそこへ行くのも悪くはないかもしれない。そして、その足で真っすぐに研究所へと向かった。
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