魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ただいまもどりました」

「はいはい、おかえり。あら、ライトくんかい?」
 祖母はレインの後ろにいるライトを見つけると優しく声をかけてくれる。そう、レインの家族は皆、優しい。ニコラもまた然り。

「また、遊びに来てしまいました。ご迷惑でしたでしょうか?」
 突然の訪問を受け入れないところも多い。だから、あえてライトはそう尋ねる。

「迷惑なわけがあるかい。久しぶりにライトくんに会えて嬉しいよ。さて、レインちゃん。帰って来たばかりで悪いけれど、ライトくんをもてなす準備をしておくれ。薬草はそっちに置いといてね。これは、あとで教えようね」

 てきぱきと指示を出す姿は、義母のニコラと重なる部分がある。やはり親子なのだろう、と思った。

 それからレインは祖母の指示の通りにライトにお茶を出して、お菓子を並べる。こんな山の中でどうやってお菓子を調達したのかと思ったら。
「私が作りました」
 と恥ずかしそうにレインが言う。その答えが意外だったので、目を丸くしてしまうライト。

「私は、外で薬草を仕分けているからね。二人で、積もる話もあるのだろう」
 気を利かせてか、祖母はそんなことを言うと、薬草の入った籠といくつかの空の籠を抱えて外に出て行く。パタンと乾いた音を立ててしまる薄っぺらい扉。

「それで、今日は、どうかされたのですか?」
 レインは尋ねた。それは突然、こんな山奥まで訪問してきたライトへの言葉。と同時に、会話のとっかかり。
「それは、さっきも言っただろう? レイン、お前に会いに来たんだよ」

「まあ。お兄様って、案外、寂しがり屋だったのですね」
 嬉しそうに首を傾ける。

「そうかもしれないね」
 笑って、ライトはお茶を一口飲んだ。家族に飢えているのは、あながち間違いではない。
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