魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトはこの薬師の家に二泊した。レインが薬草を採りに行くのを一緒についていったり、一緒に食事の準備をしたり、と。とにかく妹と一緒に何かをして過ごしていた。
 そして、彼女は今、回復薬を準備しているようだ。今日の午後、ライトは王都に戻る。ここから王都までは馬で三日かかる。それは馬だって一日中走れるわけではないからだ。休憩を含めての三日。ただ、回復薬を使えばそれを短縮できるのではないか、ということで、レインは今、馬のための回復薬を準備しているらしい。その発想は無かった。
 彼女は、魔法だけでなく本当に薬師としての能力も発揮してくれそうだ。こんなに頼もしいものはない。

「お兄様。気を付けてお戻りください」
 レインは兄を見上げて言った。

「ああ。次は迎えに来られるように、少しいろいろと調べてみるよ。今はまだ、連れて行くことはできないけれど」
 それは彼女の魔力がゼロのままだから。あそこに連れて帰るには、まだ早い。

「はい。ですが、お兄様のその気持ちだけで充分です。ここは、時間が緩やかに流れていて、集落の人たちも穏やかですから。私には、このような場所が合うのかもしれません」
 その言葉にライトは返事をしなかった。ただ黙って、彼女の頭を優しく撫でた。
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