魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトは十日程休暇、ではなく、研究という名の旅行ではなく、研究のための遠征で申請をしていた。これが研究所所属の特権である。

「ほらよ、土産だ」
 以前よりはマシになっているトラヴィスの執務席の机の上に、レインから預かった回復薬の瓶を二本、置いた。

「なんだ、これは」
 怪しいものでも見るかのようにその小瓶を見る。

「回復薬だ」

「回復薬、だと?」

 うさんくさい回復薬であると思っているのだろう。小瓶を一つ手に取ると、顔の高さまで持ち上げて、上から下から横からと眺め始めた。

「どこの回復薬だ? 普通の回復薬と違うような気がする」

「ほう、それくらいはわかるのか。さすがだな」

 トラヴィスの眉がぴくりと動いた。

「私をバカにしているのか?」

「いや? だが、さすがにそれを作った奴はわからないだろうな」

「薬師だろ」

 当たり前の答えが返ってきた。

「まあ、薬師だが」
 ライトはついつい吹き出してしまった。

「なんだ?」
 怪訝そうにトラヴィスがライトを見上げる。
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