魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
13.仕方ないからつきあってやる
 魔導士団に入団したての頃は毎日のように足を運んでいた魔導図書館であったが、団長という立場に近づくにつれ、次第に足が遠のいていった場所でもある。それは仕事の忙しさが理由なのか、団長という立場に満足してしまったからなのか、トラヴィス自身、理由はわからない。

 大魔導士ベイジル――。
 魔法を愛し、孤独を愛した魔導士、と語り継がれている。そのベイジルに娘がいた、という事実に驚きを隠せないと共に、その娘がレインであったということ。それは、胸をえぐられるような事実だった。
 だから、レインと結婚させて欲しいと四年前に当時の団長に懇願した時も、嫌な顔をされたのか、と思った。きっと、あの一家は、彼女がベイジルの娘であることを隠しておきたかったに違いない。ライトもこんな状況で無ければ、きっと口にしなかったはず。それでもそれを教えてくれたライトには感謝しかない。

 もし、ベイジルの資料などが残っているとするならば、間違いなく禁書庫の方に保管されているだろう。それだけの魔導士だったのだ、ベイジルという魔導士は。
 トラヴィスは許可証を見せ、禁書庫の鍵を受け取る。久しぶりに足を踏み入れた禁書庫。ライトがベイジルの論文が見たこと無いと言っていたが、実はトラヴィスも無い。だが、ベイジルほどの魔導士であれば、何かしら残っていてもおかしくはないと思っているのだが。
 書棚の前に立ち、規則正しく並んでいる論文の背表紙を眺める。じっと、ベイジルの名前を繰り返しながら、それを見ていた。
 だが、本当に彼の名は一つも無かった。そんなことあり得るのだろうか。しかも研究所所属であったと記憶している。研究所所属の人間であれば、間違いなく研究の成果を何かしら残しているはずだ。
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