魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 禁書庫に鍵をかけ、その鍵を返すと、研究所の方へと向かった。
 トラヴィスが研究所の建物内を闊歩するのは、珍しい。だから、すれ違おうとする研究所所属の魔導士たちが、トラヴィスのことをじっと見てからすれ違う。

 ライトの研究室の前に立った。彼のようにそれなりに研究を続けていると、大部屋の研究室ではなく、こうやって個室の研究室を手に入れることができるらしい。
 ノックをする。返事があった。
 扉を開けて、中へと入る。

「なんだ、お前か」
 机で書き物をしていたライトが顔をあげた。
「お前がここにくるなんて、珍しいんじゃないのか? まあ、そこにでも座れよ」

 ライトの机の前にある、ソファとテーブル。
 そして部屋の両脇にはびっしりと本棚。
 この部屋にあるのはそれだけ。きっとこのソファは、ライトが横になるために置いてあるにちがいない。

「なんか、飲むか?」
 ライトの問いに、トラヴィスはいらない、と答える。
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