魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインがあのベイジルの娘と言うのであれば、当たり前だがこの母親がベイジルの愛した女性というわけで。
 ベイジルがこの女性を選んだのもなんとなくわかるわけで。
 それは自分がレインに惹かれたようなものなんだろうな、とトラヴィスは思っていた。

「あ。トラヴィスくんは、レインの父親の話は知っているのかしら?」

 それにもトラヴィスは頷いた。
「はい。先日、ライトから聞きました」

「そう。本当は、あなたがレインと婚約した時に、伝えておくべきだったのよね。別に内緒にしておいたわけではなかったのだけれど」
 と、ニコラの歯切れが悪い。
「ごめんなさいね、黙っていて」
 そっと目を伏せる。そしてそのまま両手で顔を覆う。

義母(かあ)さん?」
 ライトは立ち上がると、ニコラの隣に座り直す。
 多分、恐らくニコラは泣いている。
 トラヴィスは口を真一文字に閉じていて、ただじっと一点を見つめていた。なぜか目の前の親子がうらやましいという思いも沸き起こるトラヴィス。
 ライトはそっと義母の背中に手を回す。
「義母さん……」

「ごめんなさい、つい。あの人のことを思い出してしまって」
 ここで言うあの人、とは、ライトの父親のことではないだろう。間違いなく、ベイジルだ。

 そこで、なぜかライトの胸はキリリと痛んだ。
< 80 / 184 >

この作品をシェア

pagetop