魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「その、魔力が枯渇した原因というのは、わかっているのですか?」
 ライトの問いに。
「私はわからないけれど、もしかしたらあの人はわかっていたのかもしれないわね。動けるときにはいろいろと書き物をしていたから。本当に、最後の最期まで、研究バカだったのよ」
 目尻に溜まっている涙が、辛うじてそこで堰止められている。

義母(かあ)さん、そのベイジル様の資料や論文に心当たりはありますか?」

「そうねぇ。あの人、本当に物書きは好きだったのよね。あっちの家からこっちへ来るときに、私がいくつかは持ってきたのだけれど。もしかして、アランに預けてしまったのかしら」
 そこでニコラは首を傾けた。
 アランとはライトの父親。その父親がベイジルの資料を預かったとしたらどこに保管するか。
 ライトは考える。
 第一に考えられる場所は、書斎。でもベイジル様の資料だ。大事にしまっておくならば金庫、だろう。その金庫も書斎にある。
 そこは何度も探した。だけど、無かった。

「でも、書斎には無かったんですよ」
 ライトが言うと、ニコラは驚いた顔をする。

「ええ、そんなはずはないわよ。書斎に無ければ、あとは地下の書庫にあるはずなんだけど」

「そちらも調べましたが、ありませんでした」

「え」

 その驚き方から推察するに、間違いなく義母はベイジルの資料をこの家にまで持ってきたのだろう。だが、問題はその後。この家のどこにしまったのか、ということ。
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