魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 そして、ベイジルが本当にその内容を伝えたかった人物。それはきっと、彼が会いたがっていた彼の子。つまり、レインではないのか。

「ニコラさん。これは、薬の作り方、ではないのですよね?」
 トラヴィスはニコラに向かって聞いた。

「ええ。そうね。一般的な薬の作り方ではないわね」

「料理の方は?」
 続けてトラヴィスは尋ねた。彼は料理をしないから、この資料に書かれている内容が正しいのか正しくないのかがわからない。

「一見、それっぽく見えるけれど。この通りに作ったら、なんか、美味しくなさそうよね」
 そこでニコラはくすりと笑った。

「ライト。私たちはこれらを解読する必要があると思わないか?」

「奇遇だな、トラヴィス。実は俺もそう思っていたところだ」

 二人は右手をあげると、お互いの腕を交差させてトンとぶつけ合った。これは昔からの儀式。二人で何かをやり遂げようとするときの。
 二人の顔には希望に満ちた笑みが浮かんでいる。

「ねえ、それよりも二人とも」
 そこでニコラはパチンと両手を合わせて叩いた。

「そろそろお腹が空いたころではないかしら? この続きはお夕飯をいただいてからにしましょう」
 書斎の入り口でこちらの様子を伺っていた執事に気付いたらしい。彼はペコリと頭を下げた。つまり、夕飯の準備が整いましたよ、という意味。
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