魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「ところでライト。このベイジル様の資料はどうするつもりだ?」

「それは俺も考えてる。義母(はは)の許可が出たら、論文の方は禁書庫に預けるつもりだ。だがこっちは、この屋敷から出すつもりはないな」

「そうだな」
 そこでトラヴィスもパサリと資料をテーブルの上に投げ出した。

「あー、トラヴィス。覚えているよな、お前。約束は半年だからな」

「何がだ」

「半年経っても、レインの魔力を戻す方法を見つけられなかったなら、お前とレインの婚約は解消。すでに約束の日から二月経っているから、残り四月だな」
 そこでまたライトはグラスを傾けた。

「この期に及んで、まだそんなことを言うのか?」

「この期だろうがどの期だろうが、約束は約束だ。それに、仮に万が一のことがあったとき用のお前のためでもある」

「万が一って……」
 その万が一の言葉を確認したくないがために、トラヴィスも酒を呷った。そうならないためにも、何が何でもこの資料を解読しなければならない。
 わかってはいるのだが――。
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