最愛ジェネローソ
第2話*咲宮side 不安な新人くん

自分こと咲宮 華の職場では、年に数回の職場見学を実施している。

現在、山が頭に雪を被る2月。

本日は今年度最後となる、職場見学の実施日だ。

今年も規定人数の大学生たちが、集ってくれている。

眺めていれば、自分自身にもあんな頃があったのだと、懐かしくなる。

見学の説明会の会場へと、向かっていく大学生たちを見送る。

そして、一通り、お客様の対応を終えた私は、案内で使用した書類を一旦、奥の書庫へしまいに行くことにした。

その廊下の途中に、辺りを慌ただしく見回している、真新しいスーツの大学生男子に遭遇してしまった。

きっと、はぐれてしまったのだろう。

あまり広くない、この建物の中で迷うのは、なかなか難しいことだと思う。

とは言え、初めての場所で勝手が分からないのも、分からなくはない。



「こんにちは」



挨拶をして、歩み寄ってみる。

すると、学生さんははじめ、驚いた様子を見せた後、聞こえない程の小さな声で挨拶を返してくれた。



「職場見学で来ていただきましたか?」

「は、い」

「会場、どこか分からなくなってしまいましたか」

「……はい」

「大丈夫ですよ。ご案内しますね」



余程、緊張しているのか、元々が静かな大人しい男の子であるのか、ほとんど声が聞き取れない。

自分自身も「声が小さい」とよく言われてきた身である為、緊張で喉が強ばるなら、その気持ちは分からないでもない。

しかし、逆の立場に自分がなった時、確かにこの子と一緒に仕事をしていくとなると、意思の疎通が出来るものなのか、不安にもなる。

たった今、上司や先輩の気持ちをお察しした。

非常に、申し訳ないと思う。

その学生さんがきちんと後ろから、ついて来てくれているかを確認しながら、ようやく会場である会議室へ到着した。



「こちらです。どうぞ」



小さく3回ノックをして、扉をそっと開いた。

遅れてやって来た学生さんが、あまり目立ちすぎないように、細心の注意を払う。

職場見学の担当者は、前方にて学生さん達の前で、資料を読み上げていた。

1つだけ空いていた一番後ろの席に、資料が整えて、きちんと置かれていた。

恐らく、迷った彼の為に元々、用意されていたであろう、その席へ案内する。



「こちらの席へどうぞ」



小声で促す。

そして、一礼をして会議室を後にした。

先ほど席へ促した時、彼は俯いたまま無言で着席をした。

説明会の途中ということもあり、声を出すのも躊躇われる場面だ。

それも分からなくもない。

けれど――

モヤモヤしてしまうのは、自分の器が小さいからなのだろうか。

今時うるさく言うと、睨まれてしまうのではと臆病に、慎重になる。

自分のことをいつまでも子どもの様だと思っていたのに、それよりも若い世代に戸惑った。


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