最愛ジェネローソ



「そ、それは――

「お。栗山じゃん」



華さんが答えてくれようとしたのと、まるで被せる様に男性の声が入ってきた。

その声には、どこか聞き覚えがあった。

見上げると、そこには職場の同僚である御園が立っている。

嬉しそうにニコニコとしながら、片手を上げて挨拶されてしまったので、俺もそれに応えた。

どうやら、御園は俺が陰になっていて、華さんの存在に気が付いていないようだ。

俺は、人見知りで気遣い屋の彼女を心配して、一瞥した。

案の定、華さんは温かいほうじ茶をチビりチビりと飲み、体を小さくして、息を潜めている。

申し訳なく思い、御園の方へ視線を戻す。

すると、俺の動きで彼女の存在に気付き、全てを察してくれたらしく、驚きの表情を見せていた。



「あ、もしかして、その子が噂の彼女さん? 悪いな、デートの邪魔して」



申し訳なさそうにしている御園に対して、華さんもまた気を遣って、首を横に振っている。

そんな彼女の様子に、安堵した。



「紹介するよ。"俺の彼女" 華さん」



突然、紹介してしまったにも関わらず、華さんは「は、はじめまして」と吃りながら、軽く一礼をしてくれた。

その頬は、ほんのり染まっている。

緊張しているようだが、目線はしっかりと御園を捉えているようだ。

一生懸命な彼女に、同僚はニッコリと微笑む。



「はじめまして。栗山がお世話になってます。栗山の同僚で、御園って言います」

「あ、こちらこそ。いつもありがとうございます。咲宮と申します」



再び、軽く頭を下げた華さんが、俺をチラッと見た。

その視線は、助けを求めているように見えなくもない。

顔に熱を帯びて、心なしか汗が滲んでいる。

頑張ってくれたのだ。

それは、もう十分過ぎる程に。

一生懸命な彼女が嬉しくて、見つめているだけで、頬が緩む。

彼女は恥ずかしそうに、目を逸らした。



「御園は? ここで晩飯?」

「おう。帰り道の途中にあるから、丁度いいと思ったんだけど。間が悪かったな。彼女さん、すみません。邪魔してしまって」

「い、いえ。全く」



控えめな笑顔を見せた華さんに、御園もまた笑顔で応える。



「俺も向こうの席で食べてくわ。じゃあな、栗山。また職場で」



愛想良く離れていく御園に、俺からも手を振り返す。

華さんも、そちらの方を見て、会釈をしていた。


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