最愛ジェネローソ



「ごめんね。御園、めちゃくちゃ良い奴だから」

「大丈夫。優しそうな人やね」



華さんが微笑んだ。

何だか、それだけのことが無性に妬けた。

その柔らかい表情は、俺だけを思って見せて欲しい。

物理的には、俺の方を向いているが、意味合いとしては御園の人柄に対しての表情なのだろう。

なんて、愛情にしては、あまりにも重いだろうか。

想いが溢れて、堪えきれなくて、唸る。



「よ、よしくん?」



心配して、俺の顔を覗き込んでくれる華さん。

彼女の方から、こんなに近付いてくれること自体、珍しい。

驚きと嬉しさから、鼓動が跳ね上がる。

そして、うどんの汁を啜り続けた唇は、艶っぽい。

つい目がいってしまう。

――止めろ、俺! 変態か!

首を勢い良く振って、邪念を吹き飛ばす。

それに、更に彼女は驚き、不思議そうにしている。

コロコロと表情を変える華さんを見ているのは、とても楽しい。

本当に可愛らしいと思う。

そう思ったら、同じお願い事が、また口を出ていた。



「本当に、お願い。写真、撮らせて」

「え」

「1枚だけでいいから」



華さんは、懇願する俺に困っている。



「さ、さっきから、な、なんで、そんなに……」

「華さんに会えない日も、華さんの顔を見て、元気出したいの、俺が」



俺の答に彼女の顔は、みるみる内に染まっていった。



「そ、そんな……。こんな顔、見て、元気になれる?」

「逆に自分の好きな子を見て、元気になれない人って居るの?」



"好きな子"

ずっと一途に想い続けた人。

やっと俺だけが特別な関係になれた、そう思えるくらいに大切にしたい人。

みんな彼氏彼女って、そういう思いが発端となって、関係が始まっていく筈なのだと、俺は信じて止まないから。

すると、華さんがオドオドしながら、俺を見た。



「あのね……。自分が写真を嫌がってた理由は、ね」

「うん?」

「恥ずかしかったから」

「だから、写真が苦手ってこと?」

「ううん。そうじゃなくて」



華さんは、目を伏せた。

悩ましい、その表情に思わず、どきりとする。



「みんなから人気者の、よしくんの彼女が本当に自分で良いのか、って。恥ずかしかったの、さっきまでは」

「何言ってんの。俺は華さんじゃなきゃ、ダメなんだよ」

「ありがとう。あくまで本当に、さっきまでは、そう思ってたの。だけどね……」

「うん」

「だけど、さっき、よしくんが"俺の彼女"って、一瞬も迷わずに紹介してくれたのが、嬉しくって。自分が側に居ても良いんだ、って思えたの」


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