最愛ジェネローソ
ようやく真実を打ち明けてくれた彼女の悩みは、本人には申し訳なく思うが、俺には取り越し苦労だったようだ。
「当たり前。ちゃんと俺の側に居てよ?」
愛しいが過ぎる君。
俺の本音に、更に顔を赤く染めていく。
そんな様子に、また、つい笑ってしまった。
そして、赤く染まったままの頬に触れたくなり、手をやる。
少しでも触れた頬は、とても熱く、指先からどんどん伝わってくる。
「ということで――」
本題は逃さない。
「――写真、撮らせて」
どうしても諦める姿勢を見せない俺に、華さんは圧されているようだ。
彼女は参った、と少し悩む仕草をした後、ひどく顔を強張らせた。
「い……良いよ」
俺がスマホのカメラを向けても、華さんの表情は固い。
「華さん。リラックス、リラックス」
「そ、そそそんなこと、言われても」
照れて、焦る彼女をずっと見ているのも、悪くはない。
だけど、いつまでもこのままでは居られない。
カメラを構えたままで、何か名案はないかと考えた。
彼女の緊張を和らげる方法。
彼女は目立つのが、昔から苦手そうに見える。
いつでも「自分なんか」と言っていた。
先程だって、そうだ。
『「こんな顔」、見て、元気になれる?』
「こんな」や、私「なんか」と彼女はよく使う。
中学生の頃から、面識があるから元々、分かっていることではあるが、華さんは非常に自己肯定感が低い。
俺から見れば、彼女の大人びて見える、ゆとりを持った顔立ち、それとは裏腹な恥ずかしがり屋で、慌てん坊なところは、愛嬌があるとしか思えないし。
周りの人に優しく振る舞う、常に穏やかな性格も、完璧だと思う。
それなのに、彼女はそれでも、まだ「私なんて」と思っているのだ。
自己肯定感が低いことも問題かもしれないが、もう一つ、物事の主役になることが苦手なのだろう。
そこまで、思い至って、ふと思い浮かぶ。
「じゃあ、華さん。俺と2人で『一緒に』撮ろう」
「え……」
1人で写る写真では、自分だけが注目を浴びることになる。
そうではなくて、俺も一緒に写れば、2人が対象だ。
俺たちが、主役だ。
なにも華さん1人に、負担を掛けたりしない。
俺の提案に、華さんはこくりと頷いた。
「うん。それが良い……」
快く、それどころか予想以上に、彼女は嬉しそうに口元をやや緩ませている。
その、あまりにも柔らかく、美しい表情に俺の中に衝動が走った。
ただの思いつきが、まさか、こんなにも喜んでもらえるとは、思ってもいなかった。
「じゃあ、店を出てから。撮ろう」