最愛ジェネローソ
せめてもの明るい所を、と思い、先ほど食事したうどん屋の出入口を指差した。
「こっ、今夜の食事デートは、ここでした、って感じで撮ろうか!」
「良いね」
精一杯の提案すらも受け入れてくれる華さんは、本当に優しい。
まず、俺が良く写りそうな位置を探りつつ、移動すると、彼女も俺の側までやって来て、俺の動きに合わせて、ついてくる。
それが、また愛らしくて、頭を撫で回したい、抱き締めたい衝動に駆られる。
とにかく、その感情を押さえ付け、写りの良い所を見つけた後、何とかスマホを構えた。
ずっと覚悟を決めた様な大層な表情のままで居る華さんは、カメラ目線を外さない。
「華さん」
俺が呼び掛けると、素早くこちらを見る。
そんな必死な姿に、つい笑みが漏れてしまう。
「華さん? リラックス、リラックス」
頭を二、三度ぽんぽんと撫でた。
すると、華さんは動きを止めてしまい、目だけをパチパチと瞬かせている。
続いて、スマホのカメラを見るように促した。
従順過ぎる彼女に対して、途端にまた罪悪感が込み上げるが、今こそシャッターチャンスだ。
シャッター音が、大きく聞こえる。
――ようやく、撮らせてもらえた。
充実した達成感で、体の奥がジワジワと温かくなる。
撮れた写真を確認する。
すると、そこに写った彼女を見て、つい吹き出してしまった。
「え。何、何」
華さんは俺の様子に、慌てて覗き込む。
「華さん……。目、瞑ってるよ」
「え、嘘。やだ、消して。撮り直そうよ」
「やだ。これが良い。可愛い……。華さんらしくて……くふふっ」
「絶対、面白がっとる」
先ほど、たくさん瞬きをしていたから、タイミング良く、もしくはタイミング悪く、その瞬間を捕らえてしまったらしい。
華さんは両頬を膨らませて、不服そうにしている。
しかし、俺には「これ」こそが最高の1枚。
笑ってしまうのは、彼女が愛しすぎるから。
赤子の一挙手一投足に、愛しさを感じる様に。
そのくらい、俺にとっては彼女のことが大切だ。
10年以上、思い続けてきたけれど、今も昔と何も変わらない。
他の人には見せていたであろう部分を、今では俺にも、いろんな表情を魅せてくれるようになった。
そんな彼女に、ますます惹かれていく。
この最高の1枚は、誰にも見せるつもりはない。
たとえ、同僚に「見せてほしい」と頼まれたとしても。
華さんは、俺の大切な彼女だから。
そして、この写真は大切な宝物になる筈だから。
冷え込む夜を2人で、ゆっくりと歩き始める。
今日のところは、彼女を一人暮らしのアパートへと、しっかりと送り届けて。
2人とも各々の自宅へ帰って。
家に着けば、今日の出来事を1つずつ、思い起こして、幸せな眠りにつくんだろう。
もっと一緒に居たいけれど、この先は少しずつ、慎重にいかなければ。
大切にしたい。
こうして、自分自身の欲と葛藤を続けている。
表面で「落ち着け」と抑える俺の向こう側で、欲深い俺が耐えている。
――もっと、もっと一緒に居たい。
隣り合わせで歩く彼女の横顔が、あまりにも綺麗で、溜め息を吐く。
――ああ、本当は帰したくない。