愛が欲しかった。
放課後になって、ぼくは浜下と一緒に駅前のデパートに来ていた。正確には待ち合わせ場所である正面玄関入口の前で立っている。
さすがの浜下も学校から森本と行動を共にするのは、色々不味いと思ったのか、武本に見られたくないと思ったのか、別々に行くことにしたのだった。別々に行くことにはぼくも賛成した。ちょっと男女が学校から帰るとすぐに良からぬ噂がたってしまうし、まして相手がいい噂のない相手だと立つ噂もおぞましいものになり兼ねない。とくに真面目な生徒からよく思われていないであろうぼくに立つ噂はおぞましいに違いない、そう思ってしまう。
「はまちゃーん」
大きな声で駆け寄ってくる小太り女生が目の前で立ち止まった。
「あら、九条も一緒だったんだ」
馴れ馴れしい。ぼくたちは初対面であるが、どうやらぼくの存在を知っているようだった。
「九条もピアス欲しいの?」と訊く森本にぼくは「要らない」と即答した。
「遠慮せずに買ってあげるよ」
「要らないよ」
ぼくは再度そういうと、森本にピアスの穴がない耳をみせた。
「これから開ける気はないの?」
「今のところは予定はないよ」
そう言っているうちに森本の取り巻きのような女生徒が二人やってきた。二人はぼくたちに会釈をする。それに対してぼくたちも会釈を返した。