愛が欲しかった。
「ごめん、へました」
 なんて化粧の濃い女子が言うと、取調室でお説教をしていた店長らしき人物が激昂したのだ。
「君たちは反省を全くしてないんだな、ここに住所と名前、それから学校名を記入しなさい」
 そう言ってぼくたちの前に紙をさしだす。万引き専用に作られた書類のようだった。ぼくは実行犯の二人を恨めしそうに睨んだ。

 何やってくれてんだ。いい恥じゃないか。万引きなんて本当に程度の低い犯罪の巻き添えなんて、そう思いつつ、渡された紙に視線を落とすも記入する気にはなれない。

 やってもないのだからという思いもあるが、この親の記入欄に香りさんの名前を書くわけにはいかないのだった。なぜなら……

「誠、本当なの、万引きしたなんて?」
 聞き覚えのある声が聞こえて血相を変えた香りさんがぼくの目の前に立っていた。凄く悲しそうな顔をしていた。

 違う、ぼくはやってないって叫び声をあげたくなる気持ちが溢れてきそうだった。でも、恥ずかしい気持ちも一杯だった。

「どうして香りさんがいるの?」
 謝るべきなのに最初にでた言葉がこれだった。周囲のひとたちも置いてけぼりを食らったような顔をしている。突然ぼくの保護者が前触れもなく現れたのだからびっくりするの当然のことだろう。
「秘書の子がね、誠が連れて行かれるのを丁度見ていたのよ」
 なるほど。ぼくは納得した。

 このデパートは九条グループが経営するデパートで代表取締役社長を香りさんがやっている店舗だった。だからぼくがこの店で万引きを行うことはあってはならないことだった。
< 15 / 49 >

この作品をシェア

pagetop