愛が欲しかった。
 あんな事があった後でどこかに遊びに行く気になれないぼくは浜下達と別れて帰宅することにした。駅からマンションまでの距離は歩いても帰れるくらいに近い。それは香りさんが職場の近くを選んだということだろう。

 香りさんと暮らし始めて三年と少したつが、ぼくは香りさんと口論や、説教の類いを受けたことはない。二人の関係が行き過ぎた関係を持っているにも関わらず、そういったコミュニケーションをとってこないでいたのは一重に嫌われたくないという思いが頭の片隅にあったからだった。

 関係を持ってからはとくにそういう思いが強くなったような気がする。
 ぼくはいつの間にか香りさんを異性として好意をもってきているに違いなかった。ただ、決して実を結ぶことはないと知っているからこそ、本気で向き合うことはできない。この関係に、嫌、香りさんの身体に溺れていたのだった。

 それは他の女性を知らないからかもしれないけれど、今は香りさんをぼくが求めているのも事実だった。

 そんな香りさんに対して迷惑をかけてしまったことにぼくは申し訳ない気持ちで一杯で、家路に着く足取りが重い。まるで鉛が脚に絡みついているような感じがしていた。
「はあ、帰りたくないな、どんな顔で香りさんに会えばいいんだろうか?」
 心の中を吐露するぼく。
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