愛が欲しかった。
 駅のホームにぼくは高吉に呼び出されていた。特に呼び出される理由もないし、高吉とそこまで親しくないとぼくは思っていたので、二人で遊びに行くという気もなかった。

 何の用だろうか?

 高吉は理恵子と一緒に現れたのだった。理恵子の頬を見てみるとあきらかに殴られたような後があり、それを見ると痛々しい。
「なに、どうしたの。その顔」
「浮気したから殴った」と高吉は言った。
「はあ?浮気ってぼくたちと買物に行ったこと?」
「そうだ」
「それを浮気っていうのはちょっと」酷くないか。
 人それぞれ浮気の定義が違うのはわかるが、買物に付き添っただけでも浮気か。少し厳しい気がする。理恵子は泣きはらしたような目をしているし、一言も喋らない。昨日の生意気な少女の姿は影を潜め、まるで別人のように見えた。

 男と喋るなとでも言われていそうだな。

「で、ぼくを呼び出したわけは?」
「昨日、理恵子が迷惑かけたようだから、こいつに謝らせようと思ってな」
 万引きのことをわざわざ言ったのか?。だとしたらこの理恵子って頭が少し弱いのか。まぁ、まともな思考じゃないのは確かだな。まともな女の子なら高吉や森本とは付き合わないかと、言ってて特大のブーメランが自分に返り、重い気持ちになった。
「いいよ、別に謝らなくても、なんか、罰は高吉が下したみたいだし」
 そう言ったんだけれど、高吉は理恵子の高等部を鷲掴みにして、無理やり頭を下げさせる。

 気持ちのいいものではないな。

「わかったよ。もう気にしてないから止めてあげて」
「本当にすみませんでした。」理恵子はそうかと言って高吉と駅の中に入って行った。

 なぜかどっと疲労が押し寄せてきて、ぼくは家路に急いだのだった。
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