愛が欲しかった。
パソコンと睨めっこする香りさんのためにコーヒーを持っていく。ただ香りさんといちゃつきたいだけなのだけれど、何かしら用事がないと話しかけれないぼくは臆病者だと思う。最近はデパートの業績がよくないのか、香りさんはよく溜息をつくのだった。その溜息をきくとなぜだか近寄りがたい存在に見えてしまうのだった。
ぼくは香りさんにとってどんな存在なんだろうか?
訊くのが怖い香りさんの本音。
保護者の一面もあり、年上の女性の一面も併せ持つ香りさんがぼくにもつ感情はなんだろうか?そんなことをついつい考えてしまう。
ぼくは香りさんの机にコーヒーをそっと置いた。
「ありがとう」
香りさんはそう言って、コーヒーを一口啜ると、またパソコンの画面に向き直る。一度もぼくを見ようともしない香りさんに少しだけ腹が立った。ぼくは香りさんの背後に回って香りさんの首の辺りを優しく包みこんだ。
「なに、どうしたの?甘えたいの?」
香りさんは困ったように言う。
「うん、甘えたい」
ぼくは素直に言ったが、香りさんは包みこんだ手を振りほどいて、
「ごめん。今は相手にしてあげらないのよ。まだ少し仕事が残っているから」と言う。
明確な拒絶を受けて、ぼくはそっと、その場から離れて自分の部屋へと戻った。