愛が欲しかった。
いつもより遅い時間に帰宅すると、香りさんが珍しく先に帰宅していた。ぼくをチラッとみると、
「遅い帰りね」と嫌味を言う。
いつならすぐに謝罪をするとこだけど、ぼくは無視して、着替えのために自室に向かった。その行動が気に入らないのか、香りさんはぼくの後を追うようについてくる。
「ちょっと、無視しないでよ。何拗ねてるのよ」
拗ねてると言われると、そうなんだけど、面と向かって言われると腹がたった。
「別に拗ねてないよ、早く着替えたいだけだから出ってくれる」
ぼくはそう言って、部屋の入り口に立つ香りさんを追い出した。香りさんは出て行きながら反抗期ってやつかしらと呟いていた。
ぼくはこれまで一度も反抗期と言うやつを経験したこがない。それは家に置いて貰っているという感情が強く、ただただ迷惑にならないように努めてきたつもりだった。
反抗期か。香りさんと暮らして三年。初めての反抗をぼくはしているのかもしれない。それだけの絆をぼくたちは築けているということだろう。そう思うと反抗することに抵抗が生まれるぼくがいた。
でも、素直になれないのが実情というもので、香りさんが用意している夕飯、デパートのどっかの店舗のお弁当をぼくは黙々と食べて自室に戻った。その行動に対して香りさんは大きな溜息を一つだけ吐いたのだった。