愛が欲しかった。
 藤本に対する気持ちをこんな風に使うのは男らしくないけれど、今なお冷戦中真っ只中の香りさんの気を少しでもひきたいそう思っている。
 仲直りの糸口なんかは当の昔に無くしてしまって、何を今更言っても、香りさんにはただの駄々っ子が構ってちゃんにしか見えていないぼくがいる。
 現状をどうにかして打破するのは見易くて、ぼくが素直になって、香りさんの思いを受け止めて、今までの関係で我慢すればいいのだけど、身体よりも心を重ねたいと思うようになっていた。

 ぼくは確固たる意思のもと、香りさんを独占したい。

 いつものように二人で夕食を取る。香りさんも最近はぼくに対抗して、黙々と弁当を食す。微動だにしない鉄仮面をぼくはどうにかして悔しさを味合わせてやりたいそう思って、
「最近さ、気になる子ができたんだ」そう告げた。
「へー。どんな子?」
 平然と訊く香りさん。
「すごく美人な子」
「そう、顔をしか見てないの?私が訊いてるのは性格なんだけど」
「そりゃあいい子だよ」
「どんな風に?」
 性格を訊かれて言葉につまる。
「答えらないってことはまだ深い関係ではないのね」
 ぼくを言い負かして勝ち誇った笑みを薄っすらと浮かべる。
 土台生きてる年数も違えば経験も違う年上の女性の気を惹こうとしたのは間違いだったのか。ヤキモチ一つ焼いているように見えない。それどころか、応援してくれそうな雰囲気だ。やっぱりぼくは香りさんにとってただの家族で、性のはけ口でしかないか。そう思うと悔しさが込み上げる。
「で、その気になる子はどういう家庭の子なの?」
「そんなことは関係ないだろう。」
「いいえ、関係あるは、あなたも一応は九条家の人間なのよ。その歳で結婚まで考えるとは思えないけれど、それなりにいい家庭の子じゃないと無理よ。おじい様が絶対に許さないもの」
 まるで自分の過去の話しをするように遠くを見ている香りさん。
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