愛が欲しかった。
「それってさ、ぼくにやり捨てしろと言ってるの?」
 森本にそこまで言っても悪びれた様子も見受けられない。
「別に一度付き合えばやり捨てになならないんじゃない」
 ああ、こいつは本当にぼくとは合わない。考え方が違いすぎる。友達の優先順位が何よりも低いのだ。大方、優先順位の一番がお金なのだろう。家族の愛も友情も二の次で生きていくタイプなんだろう。
「そうか、ただ一つだけ言うよ。自分を安く売るのは勝手だけだけど、友達を安く扱うのはやめたほうがいい」
 説教をするつもりはなかったのに、つい考えの相違に苛立ちを覚えてしまった。人それぞれ生き方があるのに。
「怒んなくたっていいじゃん、マジになんなよ。ダサいよ」
 悪ぶってるやつが何を言ってるって言いたいんだろうな。らしくない行動を取ったのかもしれない。

 一階、一年生の教室の前で森本と別れてすぐに浜下と出くわした。身長180センチの大柄な男はとにかく目立つ。浜下の視線の先もおのずと分かってしまう。180センチから見下ろす150センチの小さな女の子。この光景は中々どうして、絵になるんじゃないだろうか。美女と野獣みたいで。
「ふっ」と笑いがふきだす。
「なにがおかしいの?」
 振り返ると藤本の顔があった。ぼくよりやや低い藤本。近くでみると本当に美人だなと思う。
「浜下と武本ってさ美女と野獣がしっくりくるなって思って」
「なにそれ。」と笑顔で答える藤本。
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